心と和 第三十杯『空気』
先日、とある陶芸家さんのインタビューでこんな言葉を聞いた。
「花瓶の口へ手を突っ込み、鳥肌が立つような作品をつくりたい」
私達は、日々様々なものに触れ、感じ、受け取りながら生きている。
食したものより肉体が作られるように、心もまた空に込められた気を食みながら、形作られてゆくのだろう。
風も音も、匂いだって。
姿形は無いけれど「有る」ことだけは知っている。
美しい言葉を聞けば心は飾られ、穏やかなものを見れば気は和らぐ。
素敵なブラウスを選ぶように、素敵な言葉を使いましょう。
ネックレスやイヤリングをつけるのと同じように、優しい言葉を使いましょう。
と、美輪明宏さんも言っていた。
人の世を生きていると、元気を受け取ることもあれば毒を飲まされることもあるだろう。
明確な言葉でなくとも、目付きや振る舞い、それこそ「空気」から伝わることもしばしば。
遊高臺寺煮茶
石塔高登上古䑓
満林秋色畫圖開
煮茶特試菊潭水
洗盡人間胸裏埃
絵画のような景色に包まれ、菊潭の水で煮た茶を飲むと、胸の内に溜まった埃が洗い流されるようだ…
と、売茶翁も語っている。
私達が生きる上で、空気は切っても切り離せない。
食べることは我慢出来ても、空気を吸うことは誰もやめられないだろう。
だからこそ、売茶翁は茶道具を担ぎ、わざわざ「清浄なる空気」の満ちる場を求め、繰り出したのかも知れない。
美味しいゴハンを食べるように、美味しい空気を吸いに赴いたのだろう。
茶の味を決めるのは、茶葉と水だけでない。
その場に漂う空気との混ざりあい、それら全てを含めて茶湯の味わいなのだろう。
そんな空の器に満ちる不可視の世界に想いを馳せて、今日も一杯。
空気が美味しい。
片岡妙晶
真宗興正派 僧侶・宇治園製茶公認日本茶大使
ネコさんと売茶翁が好き
https://twitter.com/manohara_mani
https://www.instagram.com/manohara_mani/?hl=ja
https://www.facebook.com/myosho