心と和 第四十杯『伝染』
ふと思いついて、昔の日記を読み返した。
その中に書かれていた、一昨年東京へ行った際のこと。
泊まる予定だった宿の都合が変わり、土地勘の無い場所に放り出された。
さらに都合を変えた宿の方から悪意を向けられ、それがとても刺さった。
しかし、何故かその苦しみは尾を引かなかった。
思い返しても、その時のことは嬉しい気持ちしか思い出せない。
いろんな人に会って、いろんなところへ連れて行ってもらった。
知らないことを沢山教えてもらい、いろんな世界と出遇い、本当に楽しかった。
それまでは、一度嫌なことがあるとかなり引き摺り、しばらく落ち込んでいた。
「これ以上落ち込めない」というドン底まで堕ち切って、ようやく這い上がる。そんな気の持ち方をしていた。
でも、この時は違った。
「引き上げてくれる手」があったのだ。
悪意が心に刺さるように、人の心も伝染するものなのだろう。
事情も知らず、ただ共に過ごす時間を「嬉しい」「楽しい」と想ってくれる人の存在が、なによりも有り難かった。
側から見たら、あれはとても不幸で苦しい旅だったかも知れない。
けれど、私にとっては「嬉しくて泣けた」初めての夜だった。
どんなに辛く苦しい状況に陥ったとしても、悲しまなきゃいけない訳じゃない。
大変な思いをしながらも、笑っていいし、よろこびを噛み締めたっていい。
生きる上で災難は避けられない私達。
だからこそ「よろこび」は頂きもの、「ありがとう」は出遇う心として備わったのだろう。
どうせ誰かに伝わる心なら、引き上げる手になりたい。
そんな想いで、今日も一杯。
片岡妙晶
真宗興正派 僧侶・宇治園製茶公認日本茶大使
ネコさんと売茶翁が好き
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