心と和 第二十杯『名号』
香川県には沙弥島と呼ばれる場所が在る。
数十年前までは瀬戸内海に浮かぶ塩飽諸島の一つだったらしいが、今は埋め立て造成により地続きとなったそうな。
島のあちこちには、旧石器・縄文・弥生時代の遺跡や古墳、文学碑が数多く散在し、なかでも万葉の歌人柿本人麻呂ゆかりの歌碑や讃岐の五大師の一人「理源大師」に因んだ旧跡などが在ることから『万葉の島』とも呼ばれているらしい。
そんな土地柄からか、島には尾道のような郷愁を想わせる空気が漂っていた。
幼い頃から瀬戸大橋記念公園には何度も訪れていてけれど、すぐ近くにこんな場所が在るなんて全く知らなかった。
大人になり、地元へ帰ってきてからというもの、知れば知るほど「知らないことが有る」ことに気付かされる。
何度も通った道路だって、道端に咲いている花の名すら知らない。
人間の目は都合よく出来ていて、見たいものしか映さない。
私達はこの広い世界に在って、結局「視界」の中でしか生きて行くことが出来ないのだ。
しかし、知らないことは「知るよろこび」が有るということでもあって。
全てを見渡すことが出来ない、からこそ「出遇い」が叶う。
刻一刻と変わりゆく世界は、常に私達へ新たなよろこびを齎してくれることだろう。
そんな世界へ目を向けて、いつぞや流行った映画のように問いながら歩みたい。
「名前を付けられれば、人間はその事柄と関係を持てるようになる」とミヒャエル・エンデさんが言ってたけれど、多分そういうことなのだろう。
私達の関係は、いつだって名を号するところから始まるのだ。
飲み慣れたお茶だって、名を呼び、愛でてみれば、なんだか特別な味がする。
そんなこころで、今日も一杯。
片岡妙晶
真宗興正派 僧侶・宇治園製茶公認日本茶大使
ネコさんと売茶翁が好き
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