心と和 第二十三杯『小夜』
昨夜、ホタルを見た。
ふわふわと仲睦まじい2匹だった。
ここ数年は見かけなかったので、もうこの辺りには居なくなったものとばかり思っていた。
けど、よくよく考えてみたら、私が気付かなくなっただけだったのだろうな。
「本当に美味しいものってなんだと思う?」
幼い頃、祖父よりそんな問いを掛けられたことがある。
小学生くらいだった私は「高いもの」と答えた。
そんな答えを聞いた祖父は「今はそういう時代になんやなぁ」と少し哀しそうな顔をした。
昔のことはあまり覚えていない私だけれど、その時のことは何故だかよく覚えている。
歳を経るにつれ、様々なことを聞き、知るようになった。
が、その度に何かを失っていくような、そんな感覚を近頃は覚えるようになった。
社会を生きる中で得る知識とは、所詮「社会に於ける」ものに過ぎないのだろう。
価値あるものは「価値が有ると言われているもの」だし、それらを備え自分の価値を誇ってみたところで、流れが変わればすぐに倒れる頼りない代物だ。
同じものを食べて「美味い」と言うものも在れば「不味い」と言うものも在るのが私達。
故に、己に美味いものを食わせてやれるのは己だけ。
ミシュ○ンでも食べ○グでもない、この舌を知るのは私なのだ。
衆にとっての道理を学び扱うことは大切だが、それはあくまでも「扱う」ものであって呑まれる必要は無い。
己の慰め種は己の心に蒔けば良い。
「またホタルさん来ないかなぁ」なんて想いながら、縁側で新茶を呑んだ小夜すがら。
あの一杯はねぇ、美味しかったよ。
片岡妙晶
真宗興正派 僧侶・宇治園製茶公認日本茶大使
ネコさんと売茶翁が好き
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